『当社は一切責任を負いません』は本当に責任を負わない?-免責同意書とスポーツにおけるリスク管理-

『当社は一切責任を負いません』は本当に責任を負わない?-免責同意書とスポーツにおけるリスク管理-

「当社は一切責任を負いません」は有効?

近年、健康志向の高まりもあり、スポーツジムの利用者が増加しています。ジムの運営者(以下「事業者」といいます)としては、リスク管理のため、「当ジムでの指導中またはジム内の設備の利用中に事故等が発生した場合であっても、当ジムは一切責任を負いません。」などと記載した文書を用意し、入会希望者に署名を求めることが多いのではないでしょうか。

このように「○○は一切責任を負いません」という文言を盛り込んだ書面は、「免責同意書」と言われます。しかし、この免責同意書に署名をしてもらえば、事業者は一切責任を負わなくてもよいのでしょうか。 免責同意書の文言だけ見ると、事業者は一切責任を負わないというように読めます。しかし、事業者の落ち度が大きい場合にまで一切責任を追及できないのは不合理ではないでしょうか。また、軽い怪我ならまだしも、重篤な怪我や、最悪の場合、死亡しても一切文句は言わないということに本当に同意して署名する方がどの程度いるでしょうか。このような場合にまで一切事業者の責任追及をすることができないということに同意しなければジムの会員になることができない、というのは不合理ではないでしょうか。

結論から申し上げると、「○○は一切責任を負いません」という条項は無効となります。これは、消費者契約法という法律が根拠となります。消費者契約法は、消費者保護を目的として作られた法律ですが、事業者と消費者の間の契約や規約などに
事業者の責任(過失)で消費者に損害が発生した場合に、事業者の責任を全て免除する条項 が含まれる場合、その条項は無効になると定めています(消費者契約法8条1項1号、3号)。
「○○は一切責任を負いません」と定められている場合、これは、まさに「事業者の責任を全て免除する条項」ですから、消費者契約法により無効となるのです。

「当社が負う損害賠償額の上限は10万円とします」は有効?

では、「事故が発生した場合、当社は上限10万円の範囲で損害賠償を行いますが、それを超える責任は一切負いません。」

という条項があった場合はどうでしょうか。
事業者は10万円の範囲で責任を負うとしているのですから、「責任を全部免除する条項」にはあたりません。
しかし、ここでも、消費者契約法が問題となります。消費者契約法では、

「事業者の故意または重大な過失により消費者に損害が発生した場合に、事業者の責任の一部を免除する条項」

も無効になると定めています(消費者契約法8条1項2号、4号)。

事業者に故意または重過失がある場合、すなわち、事業者がわざと事故の原因を作ったり、事業者に重大な落ち度があった場合は、事業者の責任の一部を免除する条項も無効にすると定めているのです。「事故が発生した場合、当社は上限10万円の範囲で損害賠償を行いますが、それを超える責任は一切負いません。」という条項は、「事業者の責任の一部を免除する条項」に該当しますから、もし、事業者が故意または重大な過失により事故を発生させた場合、消費者契約法の定めにより、事業者は10万円のみの賠償で責任を免れることはできないことになります。

消費者契約法に反しない免責同意書の定め方

これまで述べた消費者契約法の内容は、以下の表のように整理することができます。
⑴の部分は全て無効(①、②は無効)、
⑵の部分は、事業者に故意又は重過失がある場合は無効となり(④が無効)、
結局、⑵の、「事業者の責任の一部を免除する条項」を定めた場合で、かつ、事業者に故意又は過失がない場合(③)のみ、消費者契約法に抵触しないこととなります。

以上より、事業者が消費費者契約法に反しないように免責条項を定めるには

「当ジムでの指導中またはジム内の設備の利用中に事故等が発生した場合、当社が会員に対し負う損害賠償額は10万円を上限とします。ただし、当社に故意又は重過失のある場合を除きます。」

などという文言にする必要があります。

あるべきリスク管理とは

ところが、このように免責条項を定めた場合に、故意又は重過失いずれもなければ賠償額の上限が必ず10万円になるかというと、そうとは限りません。

今まで述べた内容は、あくまで「消費者契約法」という法律に抵触しないかどうかという観点から述べたものにすぎません。他方、民法では、社会的に妥当でない行為、法律用語でいうと、「公序良俗違反」の行為は無効とする、と定められています。「公序良俗違反」にあたるかどうかは、消費者契約法に違反するかどうかとは別問題なので、免責条項が消費者契約法には違反していなくても、場合によっては、公序良俗違反で無効とされることもあり得ます。たとえば、事業者の(重過失にはあたらない)過失で死亡事故や重篤な事故が発生したことを考えたとき、このような場合にまで賠償額が上限10万円となることは果たして妥当といえるでしょうか。

実際、スポーツクラブのプールで会員が練習中に溺死した事故に関し、クラブの会員規約に、

「クラブは、施設内で発生した事故について、クラブに故意又は重過失がある場合を除き、一切の損害賠償責任を負わない」
と定められていた事案において、
「会員の生命身体に重大な被害が生じた場合においても、クラブが損害賠償責任を負わないという内容の規約については、その限りで公序良俗違反で無効といわなければならない」
と判示した裁判例も存在しています(富山地裁平成6年10月6日判決)

結局、事業者としては、免責条項を定めたからといって、事故の責任を100%免れることができるわけではありません。事業者としては、日ごろから、会員の方が怪我をしないよう、細心の注意を払って運営にあたることが必要不可欠であり、これがあるべきリスク管理の姿です。

このことは、スポーツジムの運営の場面だけでなく、マラソン大会やその他のスポーツ大会を運営する場面など、スポーツに関するリスク管理に共通の事項です。

具体的な対策としては、スポーツジムの運営においては、器具の取り扱い方法や、器具の取扱を誤ると怪我のおそれがあること、床が滑りやすい場合はそれらのことを書面で分かりやすいように掲示しておくこと、スポーツ大会の運営においては、競技中に水分補給をできる環境を確保すること、体調に異変を感じた時の連絡体制等を整えておくなど、一次的には事故が起こらないような工夫をしつつ、万一事故が起こった場合には被害を最小限に食い止めるような体制を整えておくことが重要です。

(この記事は令和4年6月に執筆したものです)
(山田尚史)