〈スポーツと法律⑤〉スポーツ活動中の落雷の危険性と対応策

今年は最高気温が40度を超える等、毎日異常な暑さが続いており、そのような暑さの中でスポーツをす​るときの熱中症対策の話がよく話題に上っています。 その一方で、真夏は、特に夕方ころの時刻に、雷を伴う夕立に見舞​われることもよくあります。そのため、落雷の危険性についても十​分な知識を身につけておく必要があります。 今回は、スポーツ活動中の落雷の危険性とその対応策​についてお話致します(なお、熱中症事故のお話については平成29年4月17日付のコラムで記載しておりますので、ご興味のある方はそちらをご覧ください)。

スポーツ活動中の落雷事故については、有名な最高裁の判例があり​ます。大阪府高槻市で開催されたサッカーフェスティバルの試合中に落雷を受けて重度の後遺障害が​残った競技者(事故当時は高校生)​が、大会主催者であった高校や高槻市の体育協会などを訴えたという事案​です。

一審、二審では高校や体育協会など被告側の責任は否定されたのに対し、最高裁で引っくり返り、高校と体育協会は3億円以上の賠償責任を負うことになりました。ま​た、その後体育協会は賠償金を支払うことができず破産したということも相まって​、裁判の結果は関係者に大きなインパクトを与えました。

この事案では、以下のような経緯の中で落雷事故が発生しました。​

豪雨→雷注意報発令→雨が止む。上空の大部分は明るくなるが、一部で暗雲が立ちこめ、雷鳴も聞こえた。ただし​雷鳴は大きな音ではなく、遠くの空で発生したと思われる程度のものであった。その中で試合が開始した。→試合中に競技者に落雷。

裁判では以下の事項が主な争点となりました。

① 高校や体育協会などの被告側が落雷を予見できたか

② 予見できたとして、落雷事故の発生を回避することは可能だった​か(サッカーフェスティバルには200名もの学生が参加しており、危険を察知してから落雷までの間にその​生徒全員を避難させることができたか。そもそも回避不可能だった​のであれば、大会主催者には落雷事故の責任はないということにな​ります)

①について、被告側は、雨が止み、空が明るくなり、雷鳴が遠​のくにつれ、落雷の危険は低くなる、というのが一般的な認識であ​るから、上記の状況で落雷があることは予見できなかった、と主張​しました。

一見、この言い分は真っ当なように思えます。しかし、実は、科学​的には、雷鳴が聞こえるという状況は、たとえそれが遠くで聞こえ​ていたとしても、いつ落雷があるか分からないと言われています​。雷鳴が聞こえるときは、それが近くであろうと遠くであろうと、​直ちに安全な場所へ避難する必要があるのです。

最高裁はそのような点に触れ、主催者側が主張したような一般的な(いわば素人の)​認識ではなく、科学的知見によって過失の有無は判断されるべき​であるとしました。すなわち、科学的には、雷鳴が聞こえるときは​、その音が遠くであっても落雷があるかもしれないことを予見できたはずと言えるため、判例の事案でも、雷鳴が聞こえた以上、主催者は落雷を予見できたはずだと判断したのです。

ここから言えることは、周りもそのようにやっているからというだ​けの理由で、ある方法が正しいと信じ込み、その方法​に基づきリスク管理するというのは非常に危険ということです。科​学的にその方法が誤っていた場合、万一事故が発生してしまうと、周りも同じようにしているからということを理由に責任を回避することはできません。大会主催者という責任ある立場​にある以上、正確な科学的知識に基づき、リスク管理を行う必要が​あるのです。

②については、落雷を予見できたとしても、200名もの学生を落雷まで​の間に避難させることができたのか、という点が問題になりました​。

確かに、限られた時間の中で200名を避難させることができたのか否か、という疑問はあるかもしれません。

この点について、落雷を回避するには、車の中や建物(​仮小屋などを除く)​の中が最も確実ですが、その他にも落雷を避けうる方法はあります。4m以上の高い物体の頂点を45度以上の角度に見上げることができる​範囲の下で、かつ、その高い物体から2m以上離れた場所に居れば、落雷を受ける可能性をかなりの程度軽減することができる(ただし100%回避できるわけではない)と言われています。

最高裁は、本件の事案では、試合会場の近くにコンクリート製の柱​がたくさんあり、避雷可能な場所は広範囲に及んでいたのだから、200名の生徒を避難させることは可能だったと​結論づけました。つまり、体育協会には落雷事故の責任あり、と結​論付けたのでした。

事故対策は、正確な科学的知識に基づいて行わなければならない、​ということは上述しましたが、この判例を踏まえ、落雷事故防止の​ために、最低限、以下のことは押さえておく必要があるでしょう。​

① 気象情報を確認する(天気予報、注意報、警報の発令状況など)。

② 雷鳴が聞こえたら、遠くに聞こえた場合でも競技を中止し、​避難を開始する(もっと言うと、雷鳴が聞こえなくとも、モクモクと発達した入道雲​が頭上に広がると落雷の危険がありますので、雷鳴が聞こえなくと​も早めに避難するのがベストです)。

③ ②のような場合に備え、適切な避難場所をあらかじめ把握しておく​。

このコラムでは、判例の事案の関係で大会主催者の責任に言及しましたが、​事故が発生した場合に責任を負う可能性があるのは、部活の指導者など、スポーツの現場に関与する他の立場の人にも​当てはまることです。また、競技者としても、自己が置かれた状況の危険性を把握し、適切な行動をとって自分の身を守るためには、正確な知識を身につけてくことが必須といえます。

主催者、指導者、競技者いずれの立場であったとしても、スポーツの現場にかかわる方においては、周りがこのようにしているからというような意識で漫然とした対応をするのではなく、正確な知識を身につけて事故発生のリスクを少しでも減らすよう留意してください。